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Hayashi Takahiko BLOG

円錐角膜治療の現状
2025.07.19

私は眼科専門医で、主に眼球の前のほうの角膜(黒目)や水晶体を専門としています。2014年から、角膜の裏側の治療であるデスメ膜内皮移植(DMEK)をドイツで学び、治療法の改良に専念してきました。

円錐角膜治療の変化、アップデート

実は最近少し違うことを一生懸命やっています。それは円錐角膜という角膜の前側の病気の新しい治療なんです。円錐角膜は若い人に多いのですが、最近、様々な治療法ができてきて、以前よりも負担の少ない方法で治療ができるようになったきたからです。

以下に円錐角膜について、私が現在知っていることや実践していることを記載します。

(医療従事者の方には、YOUTUBE動画をあげています。)

円錐角膜について

円錐角膜は思春期に発症し進行します。

角膜が角膜が柔らかいため、菲薄化脆弱化し、進行すると最終的には急性水腫など重篤な視力障害をきたします。角膜の強度が低下する原因はわかっていないのですが、アトピー性皮膚炎をはじめ、様々な疾患や、眼を擦るなどの刺激との関連が指摘されています。また、円錐角膜に角膜移植を行った際に摘出された組織の検査から、角膜の表面に近いBowman層という部分の断裂や脆弱化が指摘されており、角膜の強化のために後述するBowman層(膜)移植が行われる事と関連しています。

有病率は予想されているよりも多く、国際医療福祉大学の難波先生らの報告によると143人に1人(約1%弱)と言われております。男性にやや多い傾向です。

古典的な治療法はコンタクトレンズで抑えて治療し、最終的には全層角膜移植を行うという治療法しかありませんでした。

視力障害を起こす急性水腫とは?

円錐角膜が極度に進行すると角膜が極度に菲薄化しデスメ膜破裂を起し急性水腫と言われる重篤な状態となります。これは円錐角膜の5%に生じると言われております。

こうなると全層角膜移植を行うしか治療法がないため、進行予防が重要となります。

円錐角膜治療の基本的考え方

円錐角膜の治療法として、コンタクトレンズ、クロスリンキング、角膜内リング、角膜移植などさまざまな治療が選択肢としてあります。ここで治療の使い分けについて整理して行きたいと思います。

私は、円錐角膜の治療は進行と視力改善の二つのベクトルによって規定しています。(以下の図)

理解の助けになれば幸いです。

この表では横軸に進行、縦軸に視力を記載しています。

とにかく進行がある場合には角膜クロスリンキング行い、視力が不良である場合にはプラスアルファの治療を行ないます。

プラスアルファの治療としてはコンタクトレンズや強膜レンズ、

コンタクトレンズが装着できない、あるいは視力が不良である場合には手術治療が選択肢となります。

円錐角膜治療の変化①=角膜クロスリンキングで進行予防が可能に

円錐角膜の予防治療として2003年に、約20年前に角膜クロスリンキングという治療法がドイツ人眼科医によって開発され、進行予防が可能となりました。

本治療の機序として、リボフラビンを点眼後、紫外線を照射することで角膜の構造が強化されることが知られています。

角膜クロスリンキングの効果:日本国内のデータ

それでは角膜クロスリンキングの効果についてお話しさせていただきます。

これは国内のデータですが、南青山アイクリニックの加藤直子先生らのデータになります。

進行が確認できた円錐角膜95例108眼で標準法と高速照射法で比較し、術後一年での進行停止は92%で、標準法高速照射法ともほぼ同様の結果であるということです。

矯正視力は慈善より有意差がなかったということで、角膜クロスリンキングには視力改善効果がないと言うことがわかります。

それでは進行予防についてまとめます。

わずかな進行も見逃さないため、角膜トポグラフィーによる経過観察が必要です。

進行予防にはクロスリンキング、または後ほど述べるBowman膜移植を行ないます。

クロスリンキングの資料は現在バリエーションが豊富になっております。

(角膜の厚みが足りない場合に進行予防のために考慮するBowman膜移植

Bowman膜膜移植についてお話致します。

Bowman膜移植はオランダのMelles医師によって開発され、円錐角膜を安定化させる治療法として報告されました。私は南青山アイクリニックの加藤先生にお誘いいただき、2019年オランダのMelles先生のクリニックに行ってコースを受講しました。ドイツ留学の直前でした。(写真:右から2番目が私です)

Bowman膜移植の概要をしめします。

本治療はオランダのMelles医師が開発し中期の円錐角膜の進行を緩徐にする進行予防の治療で、クロスリンキングが不可能な菲薄化した症例にも有効です。

Bowman膜移植やクロスリンキングには視力を改善させる効果は強くないと言われていますが、角膜屈折力は平均で8ディオプター程度の平坦化が期待でき、ハードコンタクトレンズの装用感を改善させる効果もあるです。(Mellesの文献より)自験例でもおよそ同程度の効果は得られました。

円錐角膜治療の変化②=視力回復に有効なCAIRS(低侵襲角膜移植)の登場

しかし、視力を回復させる治療法(CAIRS=低侵襲リング状角膜実質移植)が開発されました!

インド人の眼科医Soosan Jacobによって低侵襲リング状角膜実質移植(CAIRS)が開発されました。

リング上にカットした角膜実質を角膜の実質の中のトンネルにインプラントすることで角膜を平坦化させる治療で、裸眼矯正視力か屈折力を大幅に改善させる効果があることが報告されています。PMMAでの角膜内リングにちょっと似ています。

2022年に本治療を知り、自分でこの手術を始めたいと思いました。ところが、日本国内では実施されていなかったため、海外に師匠を求めて動きました。インドのSoosan JacobをはじめドイツのBader Khayat先生、オーストラリアのBrendan Cronin先生などにオンラインでミーティングしてもらったりして、症例のプランニングとかを一緒にやりながら、2024年1月以降、実際の手術に臨みました。幸い、私には治療開始時点で1,000件(2011年~2023年12月)の角膜移植の経験値がありましたので、手技自体は実現可能でした。

海外の学会場でSoosan Jacob先生と記念撮影。(左からTina Khanam医師[UK]、私、Soosan Jacob医師[インド])

2024年の1月から70眼程度を執刀しております。結果については、学会発表、国際的な論文にも発表をしました。その後、国内でも技術継承を行い、名古屋アイクリニックの小島隆司先生も2024年秋以降に開始されました。小島先生とは海外の学会でも本治療について学びました。(左が小島隆司先生、右が私)

(https://www.kojimatakashi.com/post/%E6%96%B0%E3%81%97%E3%81%84%E5%86%86%E9%8C%90%E8%A7%92%E8%86%9C%E6%B2%BB%E7%99%82cairs%EF%BC%88%E3%82%B1%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%BA%EF%BC%89%E9%96%8B%E5%A7%8B%E3%81%AE%E3%81%8A%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%81%9B)

https://www.kojimatakashi.com/post/%E5%86%86%E9%8C%90%E8%A7%92%E8%86%9C%E3%81%AE%E6%96%B0%E6%B2%BB%E7%99%82cairs%EF%BC%88%E3%82%B1%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%BA%EF%BC%89%EF%BC%9A%E4%BD%8E%E4%BE%B5%E8%A5%B2%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B0%E7%8A%B6%E8%A7%92%E8%86%9C%E5%AE%9F%E8%B3%AA%E7%A7%BB%E6%A4%8D

小島隆司先生のCAIRSの解説が大変わかりやすいのでシェアします。

円錐角膜治療の活動のまとめと今後の意気込み

これまでの活動をまとめますと、2024年1月に日本大学板橋病院と、菊名湯田眼科において、円錐角膜に対する角膜実質リング状移植:CAIRS)を日本で行い、2024年11月に日本臨床眼科学会で治療成績を発表し、2025年、角膜の国際学術雑誌であるCORNEAにて手術手技の工夫、成績について発表致しました。

論文はこちら;

https://journals.lww.com/corneajrnl/abstract/2025/08000/a_manual_technique_for_corneal_allogeneic.19.aspx

尚、円錐角膜に対する角膜に対する角膜実質リング(状)移植(CAIRS)の治療成績に関する研究は円錐角膜研究会の支援も受けています。患者さんに還元できるよう本治療を改良し、成果を常に発表してまいりたいと思います。

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